観光が日本の経済活性化の切り札となる
2008年10月1日、日本に新たな省庁、観光庁が発足した。
日本の「観光立国」の推進体制を強化するために設置されたこの観光庁が、
今、今後の日本経済活性化の切り札として注目を集めている。
 
 
 
 
「まずは、きらりと光る観光大国を目指します。2020年、現在の約2倍以上に当たる年間2000万人の外国人が旅行者として訪日することを実現したいと思います。現在、800万人ぐらいあると思います。これは4.3兆円の消費市場をつくることになると思われます」(首相官邸HPより)

 これは今年の4月9日、今後の日本の経済成長戦略の原案として発表された、麻生太郎首相のスピーチを抜粋したものだ。「新たな成長に向けて」と題された同スピーチで麻生首相は、次世代自動車産業やアジア経済における成長構想らとともに、「観光」分野の成長、中でも訪日外国人旅行者数を増やすことを、国家の経済戦略の一つとして挙げた。これは2003年、小泉元首相が外国人旅行者の日本への誘致活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン』を開始する以前から言われてきたことだが、少子高齢化による人口の減少が避けられない日本において、訪日外国人旅行者数を増やし、外貨を獲得していくことは、今後も日本経済が成長していく上で、もはや欠かすことは出来ないところまできている。「観光立国」日本の実現は、少子高齢化時代の経済活性化の切り札として、今、非常に重要な役割を求められているのである。

 そして、その急先鋒として期待されるのが、2008年10月1日、国土交通省の外局として新たに設置された、観光庁だ。同庁は、
1、国際競争力の高い魅力ある観光地づくり。
2、観光産業の国際競争力の強化・観光の振興に寄与する人材の育成。
3、国際観光の振興。
4、観光施行の促進のための環境の整備。

 この4つの基本的施策を柱に、2007年次、年間835万人だった訪日外国人旅行者数を、2010年には1000万人、その10年後の2020年には2000万人に増やすという目標を掲げ、日本の「観光立国」の実現に向けた取り組みを行っているのである。
 
 
新設と同時に重要な任務を担う観光庁だが、今後、さらに訪日外国人旅行者数を増やしていくには、どのような取り組みが必要だと考えているのか。観光庁総務課企画室の中川哲宏氏に話を伺った。

「まず、我が国の多様な観光資源を包括した“日本ブランド”を確立させ、ビジット・ジャパン・キャンペーンを通じてより精度の高いプロモーション活動を展開することが喫緊の課題です。一方で、外国人観光客を受け入れる側の体制整備も極めて重要です。
 せっかくプロモーション活動が功を奏し日本に来て頂いても、そこで不快な思いをされた方、不便な思いをされた方は、恐らくもう日本に足を運んでくれないでしょう。逆に、日本で素敵な時間を過ごして頂けた方は、もしかしたらキャンペーンに関係なく、再び日本を訪れてくれるかもしれません。長い目で見た場合、後者の数を増やしていくことが、外国人旅行者数を増やすことに繋がっていくと考えています。
 空港や観光地で、スムーズに移動でき、快適に過ごせること。そのための環境整備は、我々行政として重要な使命の一つです。また、我が国の観光産業の国際競争力を強化するため、新しい観光資源の発掘や観光商品の開発なども牽引していかなければなりません。しかし、外客誘致において何よりも重要なのは、日本を訪れた外国人がまた訪れたいと思うような魅力的な観光地づくりです。それは、観光地自体の魅力もそうですし、旅行者と接する人の魅力もです。観光地の魅力は、その地に住む人々によってつくられます。そのため魅力的な観光地をつくって頂けるよう、まずは各地で観光に携わる人たちの気分や気運を盛り上げていくことが重要になると考えています。そのための取り組みとして、観光関係の人材育成や各種イベント開催などの支援をしたりしています」(中川氏)


 政府主導で、ああしろ、こうしろと促すのでは、根本的な魅力ある観光地づくりには繋がらない。勇気を持ってバックアップに尽くすことが自分たちの役割だと中川氏は言う。こうした取り組みはすでに実を結び始め、今日では地域や観光事業者などから創意工夫に満ちた自発的な要請を受けることも多いのだという。このように民間が自由に政府に提案できるのには、観光庁自体の雰囲気も大きく影響していると思われる。

「役所というと堅いイメージをお持ちの方も多いと思うのですが、観光庁は、そのイメージとはかなり違います。長官の思いもあって「開かれた観光庁」を行動憲章として掲げているのですが、その甲斐もあって雰囲気は役所というよりむしろ民間に近いのかなと思います。
 やはり観光は、地域の方々や民間の皆さんと連携して進めていかなくては、何も進みません。官民が隔たりなく連携していくためにも、いわゆる『お役人』にならないように、ということは意識しています」(中川氏)


 ただ、官民不問の連携体制を築き上げてはいても、もちろん政府としての役割、民間とは違った視点から観光を捉える必要もある。それが、外国人旅行者が増えることで起こりうる、弊害の問題への対策だ。

「訪日外国人旅行者が増えると、不法滞在や犯罪の増加が懸念されます。自分たちの政策が上手くいってさえいれば良いということは当然なく、政府としては弊害として起こりうる問題にも取り組む必要があります。長期的なスパンで、こうした社会全体のことを考えるという点は、民間企業が扱う“観光”との決定的な違いではないでしょうか」(中川氏)
 
 
また、地域で働く人々が外国人の対応に完全に慣れていないという問題もある。これらは、訪日外国人旅行者数の増加促進を行いながら、同時に対策へ取り組んでいかなければならない問題であろう。

 生産波及効果52.9兆円。雇用効果442万人(ともに2006年度)と、現段階ですでに日本経済に大きな影響力を持つ観光産業。訪日外国人旅行者数が2倍以上に増えれば、影響力がさらに増すのは当然で、ともすれば日本の経済活性化の切り札として期待されるのにも頷ける。観光庁が発足して、まだ数ヶ月。官と民の垣根をなくした、これまでにない新しい省庁の形で始めた取り組みは、まだスタートしたばかりだ。地域が活性化され、観光地が魅力的になればなるほど、目標達成に近づくはずだ。