「自分はどうやってキャリアを創っていくべきか」——

新卒者・転職者を問わず、誰でも一度はこんな疑問を抱くはず。
そこで今回、“自分株式会社”の設立を提唱する「i-Company」の校長・小畑重和氏に話を聞き、最強のキャリア創りに必要なことを伝授してもらった。さあ、誌上講義のスタートです!

 
プロローグ
 
 

 20・30代の転職者のキャリア創りを支援するビジネススクール「i‐Company」の校長・小畑重和氏は、経済の成熟期に入った今の日本では“個人”こそが社会での価値基準の中心になると語っている。

 
 
「コンビニのメニューや携帯電話の新製品など、個人のアイデアを反映した商品を目にすることが多くなりましたよね。それはつまり、個人の成果が評価されるチャンスが増えているということ。個人の価値こそが、新たな期待を高める時代になっていると思います」

 業界や会社名というブランドではなく、個人ブランドの価値を重要視する。時代の変化を踏まえたそんなコンセプトこそが“自分株式会社”の設立によるキャリア創りのスタートラインとなるのだ。

 
1時限
「アイ・カンパニー」設立の準備
 
 

 個人ブランドを確立するというスタンスに立ちながら、敢えて自分自身を“会社”として捉えるのはなぜか。小畑氏は、キャリア創りと企業経営における共通点を指摘し、自身を会社に見立てることでより明確なビジョンを持つことができると説明している。

 
 
「自分の5年先、10年先の姿がはっきりとイメージできないのと同じで、企業の10~20年先もはっきりとは分からないものです。しかし経営者は、自社の強み、つまり商品力や技術力など、武器となるものを明確に打ち出しながら経営を進めていきます。そして同時に“何を目指すか”ということを、漠然と示しています。大きな概念で方向性を掲げ、そこに共感してもらえるファンを増やしながら次のステージをめざすわけです。こうしたことは、先が見えない個人のキャリア創りと、非常に多くの共通点を持っています。そんな理由から、自分の強み、大きなビジョン、当面のアクションプランを明らかにするなど、キャリア創りを自分という企業を経営することに例えているわけです」

 勤め先を“登記先”、上司や顧客を“自分にとっての株主”として捉え、自分自身の強みや期待されることなどを明確にしているのが「i‐Company」の大きな特徴。そして、自分を会社として考えることによって、漠然とした未来像を自分の言葉で語れるようになり、その実現のために必要なことを認識できるのだと、小畑氏は説明してくれた。

 
2時限
「社史」の作成
 
 

 ここからは、「i‐Company」で実際に行われている具体的な作業について、小畑氏に解説してもらった。

 まず最初に行うのが、自分株式会社のベースとなる「社史」作りだ。左に掲載したように、自分の社史として属性や年齢とともにイベン トや取り組み、そこで考えたことや感じたこと、そして“成長度曲線”というものを記入していく。過去の行動を振り返り、整理できるこの「社史」作りによって、様々なターニングポイントでの自分の考えや行動が明らかになり、そこから“自分らしさ”が明らかになってくるはずである。この作業によって、自身の“モチベーション特性”、つまりやりたいことを把握することができると小畑氏は説明する。

「どういう時に楽しいと思ったのか、特徴めいたものを整理できるのがこの社史作りの特徴です。この作業によって、自分がやりたいことを見つけるのですが、身に付けた力を整理することで、自分が目指す姿がより明確になります。例えば“コンサルタント”という限定した職種を目指す人の場合にも、身に付けた力を整理していくと『人の話を丁寧にヒアリングしてまとめながら提案できるような仕事』という具合に枠を広げながら考えることができるわけです」

 また、“成長度曲線”を入れる狙いについて、小畑氏は次のように語ってくれた。

「これまでの人生の中で特に印象に残っている出来事が、この曲線の山と谷の部分に表れます。良かったことも、イマイチだったと思っていることも、その印象に残っている出来事があった時に、自分自身に力が付いていることが実は多いんです。そんな、ターニングポイントとなる出来事を通して得た能力を整理する、認識するという狙いが、ここにはあります」

 
(上)自分のこれまでの歴史を整理する「社史」
 
左の表の一番右に、その身に付けた能力を記入する欄があるが、ここでは自身の社史をいくつかの時代に分け、それぞれの時代で得た力をまとめている。その時代の区切りとなるのは、山や谷として曲線に表れる出来事であり、そうした場面でこそ大きな能力を自分のものにしているのだと、小畑氏は指摘している。

「この社史の中から、自分がこの時代にこんな力が付いたなというあたりを付けておき、次のステップでその“筋力”を詳しく分析します。その“筋力”とは、自分を会社に置き換えた時に商品・技術力という言葉にできるものです」

 自分はどんなことが楽しいと思っていて、それを実現するためにどんな武器を持っているか。これからの「アイ・カンパニー」創りへのヒントがここに表れるのだ。

 
3時限
筋力チェック? 自社の因子分解
 
 

 次のステップでは、「社史」から抽出された“筋力”を分析していく。「i‐Company」では、スタンスを確立し、身に付いているポータブルスキル(どの業種においても有効な能力)を自身の筋力として認識することをポイントとしている。

「まず、誰に・何を・どのようにという断面で行動を具体的に切り取って、それを抽象的な言葉に置き換えていきます。そこから、獲得した強みを考え、それがどのポータブルスキルに該当するかを認識します。その認識があれば、企業の面接で自分の強みを効果的にアピールでき、またその筋力を鍛えやすくなるんです」

 強みというものを考える際には、表現することが難しいが故に、それを資格などのテクニカルスキルに置き換えてしまいがちだ。しかし、キャリア創りにおいてより重要なのはエピソードに裏付けされたポータブルスキルであり、それを認識しておくことによって自分ができること、自分の筋力を明確にできるということだ。

 
現在の姿、未来の姿、アクションプランを明確にすることで自分の「スタンス」を確立。さらに、セルフマネジメントスキル、ヒューマンスキル、タスクマネジメントスキルに大別される「ポータブルスキル」を自身で認識することがキャリア構築の上では重要な取り組みとなる
4時限
自社のめざす姿とマーケティング
 
 

 ここまで、「自分株式会社」でやりたいこと、やれること、そしてそ のための商品・技術力となる能力を整理してきた。次の段階として、そ れらの分析をもとにした経営ビジョンの構築、つまり「やるべきこと」 の具体化だ。ここで、自分が会社として成立するために、忘れてはなら ないのが、市場からの期待という要素を把握した上で経営方針を決める こと。周りからどんなことを期待されているのか、自分の認識と周囲の 認識をすり合わせた上で、自分のめざす姿をビジョンとして持つこと が、キャリア創りを成功に導くポイントとなるのだ。小畑氏は次のように語る。

「会社の上司や同僚、顧客に対してメモを渡し、今後自分に期待してい ることを書いてもらうのも一つの方法です。自分のやるべきことを認識 するのは、非常にハードルの高い作業。でも、周りからの評価を踏ま え、足りないものを強化したり、変化していくことは重要なことです」

 マーケティングを行いながら環境を分析し、やるべきことを的確に捉 えることで企業価値は上がっていく。そして、そこから自社のめざす姿 を考えながら、戦略を立てていくことが必要なのである。

 
これまでのステップで抽出した事項をまとめ、自社の経営ビジョンを書き出すシート。モチベーション特性や求める条件から目指す姿を導き出し、経営戦略のベースとなるキャッチコピーを記入する
最終時限
自分(自社)の経営目標と戦略
 
 

 自分自身を株式会社に置き換え、個人として新たな価値を生み出すキャリア創りのための最終ステップは、経営戦略作りだ。

 小畑氏によると、ここではまず自社の経営目標を一言で簡潔に言い表すキャッチコピーを決める必要があるということだ。このキャッチコピーは、やりたいこと=モチベーション特性、やれること=筋力、やるべきこと=環境認識の3つを踏まえ、これまでのステップで発見した自分自身の特性を反映させたものとするのがポイントだと、小畑氏は説明している。

 次に、ポータブルスキルの認識の際に抽出した能力を書き出し、その中から特に自分の武器となる能力をピックアップする。ポータブルスキルは、対人的なヒューマンスキル、対自分的な要素となるセルフコントロールスキル、対課題的能力であるタスクマネジメントスキルからそれぞれ一つずつ選び、その中から一つを強化する筋力として選び出す。ここで特徴的なのが、強みと同時に弱みとなっているスキルも選択する点だ。そして、強みを強化する上でのライバル、弱みを克服した姿のロールモデルを具体的な人物でイメージしていく。その狙いについて、小畑氏は次のように語る。

「強みと弱みをそれぞれ一つずつ絞り込んで、こんな風になりたいとイメージする。そして、経営目標であるキャッチフレーズを実現し、そのイメージする姿に近づくために何が必要かということを明確にするのが、このステップの狙いです。それはつまり、自分という会社の経営戦略であり、将来に向けたアクションプランの設定へとつながっていくのです」

 
経営戦略のステップで使われるシートでは、まずめざす姿を表すキャッチコピーを記入。その下に強化する強み、克服すべき弱みをイメージするモデルとともに記入し、実行すべきアクションプランを導き出す
 
最後に小畑氏は、これまでのステップで明確になった自分株式会社の姿をプロモーションする際に利用できる無料Webサービス「エピソードバンク」について説明してくれた。

「例えば面接の際に、自分にはこんな力がありますという説明をしたい場合、その証明となるのは具体的な出来事。エピソードバンクでは、状況、そのときにあった困難、行動、結果を整理して、一つのエピソードにまとめることで、自分にどんなポータブルスキルがあるのかをPRするためのノウハウを提供しています。それは、戦略作りのサポートとは別に、個人の価値をアウトプットするための一つの取り組み。こうした様々なサービスを利用しながら、社会に真の価値を創出できる個人をめざして、キャリア創りに取り組んで欲しいと、私は思っています」

 
 

株式会社リクルートエージェントが主催するビジネススクール。人材を一つの企業として考え、自身の強み・弱みを把握した上での「スタンスの確立」、そして業界・職種・時代に左右されない「ポータブルスキルの具現化」をサポート。2007年には「エピソードバンク」を開設し、若手ビジネスパーソンのキャリア作りを支援している
http://www.i-company.net/
 
 

 
小畑重和
(おばた・しげかず)
i-Company校長

1958年京都市出身。京都大学法学部卒業。82年株式会社リクルート入社。人事部人材開発課長、ガテン事業部事業企画課長を経て、93年情報と流通のシナジーをめざす『暁の駱駝プロジェクト』創設。コンビニ放送局開局、コンビニECマガジン創刊など新事業立ち上げに従事。2001年株式会社リクルートエージェントに移り、サイト編集長、募集企画部長を経て、現職

 
 

コラム一覧

2009/02/19

文化の違いが生む日米ビジネストラブル(6)

6回目/全6回


株式会社グローバルビジョンテクノロジー会長
天野 雅晴

more

2009/04/28

米国社会におけるキャリアUP方法(6)

6回目/全12回


USリマック代表
葉 英禄

more

2009/01/09

法務業界で働く(3)

3回目/全3回


リーガルフューチャーズジャパン
Damion Way

more

2009/03/28

Job Hunting in Japan(3)

3回目/全3回


Robert Half Japan Managing Director
David Price

more

2008/10/01

IT業界におけるバイリンガル人材の価値

1回目/全1回


株式会社パナッシュ 代表取締役社長
Michael Bondy

more

2009/02/23

日本就職のホントのところ(6)

6回目/全6回


ベリタス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長
坂尾 晃司

more

2009/01/18

学生の品格(3)

3回目/全3回


株式会社ザメディアジョン 代表取締役社長兼CEO
山近 義幸

more

2008/09/29

『日本人留学生』 内定攻略(10)

10回目/全10回


ワールドキャリア編集部

more