OECD(経済開発協力機構)が、OECD加盟国の15歳児の学習到達度調査を目的に行なっている国際学力テスト。2000年から実施され、以後3年に1度のサイクルで行なわれている。調査は読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野からなり、2006年調査には、57の国と地域(OECD非加盟国含む)、約40万人の15歳児が参加。特定の学校カリキュラムがどれだけ習得されているかをみるものではなく、義務教育修了段階の15歳児が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうかを評価。思考プロセスの習得、概念の理解、及び様々な状況でそれらを生かす力が重視される。
 
 
出所 : OECD「PISA 2006 results(2007.12.04)」より
 
 
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応用力が低下している日本の子どもたち
 
 
「日本、すごいじゃん!」
上のランキングを見て、目を輝かせている、そこのあなた! 確かに今でも日本の子どもたちの学力は世界トップレベル。しかし、ちょっと前まではもっとすごかったのである。嘘だと思ったら、お父さん方に聞いてみて欲しい。「お父さんたちの若い頃はな…」そんな聞き飽きたお決まりのフレーズで話が始まったとしても、それはきっと本当の話。というか、お父さんがすでに若くはなかった、今から8年前の2000年までは、少なくとも日本は世界で1、2を競う学力を誇っていたのである。
 そもそも日本国内で子どもの学力低下が大きく問題視されるようになったのは2004年末。PISA(学習到達度調査)2003のテスト結果が公表されてからだ。
 PISAとは、OECD(経済開発機構)が3年に1度のサイクルで行なっている国際学力テストのことで、義務教育終了段階である15歳児を対象に、数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解力、主に3分野の学習到達度が調査される。
 
 
2000年から始まり、2006年の調査では、57の国と地域で、約40万人の15歳児が参加するなど、世界的な認知度は高く、自国の子どもの学力を世界と比較するには、もってこいの学力テストなのである。
 もともと教育制度には定評のあった日本。第一回目となった2000年(32カ国が参加)の調査では、読解力こそ8位に甘んじたものの、科学的リテラシーでは世界2位、数学的リテラシーでは世界1位の成績を収め、3分野合計の平均点でも見事世界1位を獲得している(ちなみに2位は韓国、3位はフィンランド、アメリカは17位)。
 しかし、それからわずか3年後、問題のの2003年の調査(41の国と地域が参加)。科学的リテラシーでこそ前回同様の2位を何とかキープしたが、前回1位だった数学的リテラシーは6位へ後退。読解力に至ってはトップ10内からも漏れ、14位まで沈んだのである。この結果を受け、「教育」に少なからず自信を持っていた日本は大騒ぎ。
 
 
「脱ゆとり教育」なんて言葉が、連日新聞等のメディアを賑わし、「子どもの学力低下」が大きく問題視されるようになったというわけだ。
 そして、それからさらに3年経った2006年の調査結果が上のランキング。3分野すべてで、トップ5内から「日本」の名前は消え、数学的リテラシーは10位、読解力は15位へと、さらに順位を落とした。
 「別に勉強なんてできなくても」、小さな子どもを持つ親からは、そんな声も聞こえてきそうだが、そうも簡単に片付けられないのがこの調査の厄介なとこ。というのも、この調査は、計算力や読み書き力、いわゆる受験のような学力テストではなく、実生活の様々な場面で直面する課題に、学んだことをどの程度活用できるか。すなわち「生きていく上での応用力」が評価の基準となったテストなのである(実際にテストで出された問題の一例を次ページに掲載)。自分で問題を見つけ、解決する力、それが低下しているとあらば、やはり不安にならざるを得ないのである。




 
 
 
 
 
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テストで良い点数を取ることは重要?

 上に記載した問題文は、PISAの2000年の調査、読解力のテストで、実際に子どもたちに出題された問題である。なつかしいなぁ、昔、こんなのやったなぁ。問題文を読んで、そこから答えを探す。一見、日本で良くあるテストと大差なく見えるが、問題の「問3」と「問4」を見て頂きたい。問の最後は、「あなたの答えを説明してください」という一文で締めくくられている。これは、日本では中々見ない問題ではなかろうか。
 前ページで、同調査では「生きていく上での応用力が評価される」と述べたが、中でも日本の子どもたちが最も苦手とする読解力は、問題を分析し理解する力や、与えられた情報を自分の意見にまとめる力、総合的な思考力が問われる問題となっている。日本の子どもたちは、覚えた公式を使って正解を導くことには優れているが、確かな正解のない問題において、問題点を見つけ出し、解決することは大の苦手なのだ。これを社会人の姿に言い換えると、「言われたことをこなすのは得意」だが、「自ら考えて実行するのは苦手」ということにならないであろうか。
 受験のため、テストで良い点数を取るために勉強をしている感が強い日本。問題の根本解決よりも、公式の使い方を教える、試験対策に特化した点数主義的な日本の教育そのものに、問題があるのかもしれない。
 ちなみに、同調査で総合1位となったフィンランド。同国では義務教育の間は、学力を競うためのテストが一切行なわれないのだという。





数学に「自信あり」と答えた日本の生徒はわずか17%

 
 
 

出所:国際教育到達度評価学会(IEA)、「TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)2003」
 
 
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学力低下の要因はバラエティー番組?

 最後は、実際に勉強をしている側の子どもたち、中学校2年生と小学校4年生の生徒を対象に、彼らの生活スタイルや勉強に対する意識を、PISA2006の総合順位上位国(地域)を中心にを見ていこう。
 まずは放課後、学校が終わってから寝るまでの時間の使い方を見て頂きたい。塾や宿題など、勉強に費やす時間は、中学校2年生では国や地域による差は少なく、小学校4年生においても、香港の子どもたちが群を抜いて勉強熱心であることを除けば、その他の国や地域で大差は見られなかった。
 放課後の時間の使い方で、日本と他の国や地域で大きな差が見られたのは、テレビやDVD鑑賞の時間と、インターネットに費やす時間だ。他の国(地域)の子どもたちに比べ、日本の子どもたちはインターネットに費やす時間が少なく、逆に、テレビやDVD鑑賞に費やす時間が圧倒的に多いのだ。学校が終わってから寝るまでの時間を8時間と仮定した場合、日本の中学校2年生は1日平均2時間以上はテレビ(DVD)を観ていることになる。ただボーっと鑑賞できるテレビと、自分の知りたい情報を入手するためには「検索」が必要なインターネット。その性質の違いから、もしかしたらインターネットを使用する子どもたちの方が、自ら問題を発見し、解決する力が養われるのかもしれないが、だからと言って、それが日本の子どもたちの学力が低下していることとは繋がらない。もしテレビの鑑賞時間と学力低下に因果関係があるとすれば、それは、いつの間にか日本のゴールデンタイムを占拠していたバラエティー番組とテレビドラマ、教養の側面から見た場合の日本のテレビ番組の質の低さにあるのではなかろうか。
 さて、続いて子どもたちの勉強に対する意識を比べてみると、そこには日本と他の国(地域)の子どもたちで大きな違いが見てとれる。日本の子どもたちは、他の国(地域)の子どもたちに比べ、自身の学力に「自信」を持てないでいるのである。特に顕著なのが中学校2年生。アメリカの子どもたちは約半数が学力に「自信あり」と答えたのに対し、日本は理科の学力に自信があると答えた生徒は20%、数学に至ってはわずか17%しかいない。この現状を「日本人は控えめだから」という言葉で片付けることは到底できないであろう。