世界中には幾多の都市があるが、果たしてその中で最も住みやすい都市はどこなのであろうか?

 そもそも「住みやすい都市」、例えば治安が良い、緑がきれい、または便利など、その定義は人によってそれぞれ異なると思われる。中には「近くに海があれば、それだけでいいんだ」という方もいるであろう。ともあれ大半の方は、生活する上で必要な項目、そのバランスを重視しはしないだろうか。とても便利で、緑も多くて、医療や学校施設も充実しているのだが、とにかく治安が悪い…、という都市よりも、特筆すべきことは少ないが、すべてにおいてある程度の水準は超えている、といった都市の方が安心・快適に生活できる気はしないだろうか。もちろん、各項目の水準が高ければ高いに超したことはない。米コンサルタント会社マーサーが毎年実施している調査に、「世界生活環境調査」というものがある。これは世界215の都市を対象に、政治や経済、物価や環境に治安、さらには医療、教育、交通機関、自然災害の頻度など、計39項目を調査し、アメリカ・ニューヨークを基準に比較、数値化したものだ。その地で生活を送る上で重要視される項目、そのすべてが充実している都市ほど高い指数となる。言ってみれば、これはすなわち「住みやすい都市ランキング」なのである。今回はこの調査を参照に、世界で住みやすい都市、そのTOP40を見ていこう。
 
 
 
 
出所:マーサー 『2008年世界生活環境調査』
 
 
ご覧の通り、世界で一番住みやすい都市の座を射止めたのはスイスのチューリッヒ。さらに同国の都市は、2位にジュネーブ、9位にベルンと3都市が上位にランクインした。スイスはご存知の通り永世中立国であり、世界で最も安全な国のひとつであることに疑いの余地はない。また、1位のチューリッヒは、スイスの金融・経済・商業の中心地で、ヨーロッパ有数の世界都市でありながら、中世の建物が並ぶ緑豊かな町並み、さらには美術館や劇場などの文化施設も多いことが高ポイントに繋がったようだ。ランキングをさらに見ていくと、TOP10内には、ドイツの都市が3都市名を連ねた他、TOP40内にもヨーロッパの都市が多く入っている。他の地域と比べ、ヨーロッパの都市は、インフラ整備、健康・福祉、政情の安定という観点から上位となっているとのこと。また、世界的な大都市であり、文化施設も多いロンドン(39位)だが、犯罪、大気汚染、交通渋滞といった面でポイントが得られず、他のヨーロッパの国々の都市と比べ低い順位となった。

 ヨーロッパ以外の国では、5位にニュージーランドのオークランド、10位にオーストラリアのシドニー、そして15位にカナダのトロントがランクイン。この3ヵ国は、その他の都市も上位に入っている。生活の基本的な快適さ、衛生、安全性のバランスに優れていることが、経済の中心である他国の都市よりも評価された格好だ。オーストラリアへの永住を目指す日本人が年々増加しているのも、こういった住みやすさを受けてのことなのであろう。

 さて、これらの国よりも経済力で勝りながら、上位に入り込めなかったのがアメリカと日本の都市。アメリカの都市では、28位のホノルル(ハワイ)を最高位に、29位にサンフランシスコ、44位にワシントンDC、そして同ランキングのベース都市であるニューヨークは49位であった。アメリカの場合、交通渋滞や大気汚染の影響もさることながら、順位が伸びない最も大きな要因は犯罪面だという。全米の100万人都市の中でも1番犯罪発生率が低いと言われているニューヨークですら、年間で約500件の殺人事件が発生しており、これは東京の約4倍。ひと昔前と比べれば格段に治安が良くなったことは言え、「安心」とはまだ認識されていないようだ。

 また、日本の都市では35位に東京、38位に横浜、40位に神戸が続いた。日本もアメリカ同様、近年の治安と環境の悪化が上位に入れない大きな要因。ちなみに、アジアの都市ではシンガポールの32位が最高位。また、中国の都市では70位の香港が最高であった。

 こうしてランキングを見てみると、すでにある程度の生活環境が整っている先進国の都市では、治安や環境といった要素が上位都市との明暗を分けた格好となっている。アメリカや日本の都市は、便利さや娯楽施設の充実もほどほどに、安心や安全、健康面における満足度を向上させることが、住みやすい都市上位に上がるポイントとなりそうだ。また、最後に同ランキングの過去3年間のTOP20を掲載した。2005年から2006年にかけて、ニュージーランドの都市が順位を上げた以外は、過去3年間でほぼ変化なし。安定した都市=住みやすい。治安や環境や政情など、生活環境が数年で悪化する心配が低いからこそ、住みやすい都市上位に入っているというわけだ。
 


出所:マーサー 『2008年世界生活環境調査』