「STOP THE 温暖化」。これは日本で展開されている地球温暖化防止のためのキャンペーンの名称だ。1997年の12月に議決された京都議定書以降、世界中で関心が高まっている環境問題。読者の中にも、すでにエコに取り組んでいる方も多いことであろう。京都議定書では、先進国を中心に各国に2012年までに削減すべき目標が制定されており、ちなみに日本は「1990年の排出量の6%減」。日本に戻ってきた際、「チーム・マイナス6%」というフレーズを目に、または耳にしたことがあると思うが、これは京都議定書で定められた日本の削減目標に起因しているのである。さて、では日本はどのくらいのCO2を排出しているのだろうか? 世界最高峰の環境技術を誇ると言われる日本。世界の中で、CO2の排出量が多いのか、少ないのか。非常に気になるところ。というわけで今回は、CO2排出量が多い国ランキングを公開。京都議定書で定められた目標の基準年にあたる、1990年のランキングと併せて見比べていこう。
 
出所:Energy Information Administration「International Energy Annual 2006」
 
CO2排出量の多い国ランキング(2006)の第1位は中国、僅差でアメリカが続く。すでに知っていた、という方もいるかもしれないが、ランキングを見て改めて驚く。世界中のCO2排出量の約40%は、アメリカと中国、この2カ国で排出されているのだ。ともあれ、人口が多いほど排出されるCO2が多くなるのは当然で、人口世界第2位(ちなみに1位が中国、3位がアメリカ)のインドも4位にランクインしている。

 そして、インドに次ぐ第5位にランクインしたのが日本だ。全体に占める割合は4.3%。思っていたより多いか、少ないかの判断はそれぞれに委ねるとして、この日本までの上位5カ国までが、割合4%超え。この5カ国で世界中のCO2排出量の半数以上となる約55%を占めていることになる。ちなみに1990年の排出量と比べてみると、近年、急激な経済成長を遂げた中国とインドが、それぞれ約2.6倍、約2.2倍の増加。上位国では、ドイツやイギリスといったヨーロッパの国で1990年よりも削減することに成功しているが、その他の国では大半が増加傾向。6%減を目指す日本も例外ではなく、減るどころか、むしろ増えてしまっている。

 さて、とはいえ国全体のCO2排出量は、その国に住む人口の数で左右されるほか、経済のレベル、さらには国土の広さなども関与してくる。そのため、CO2排出量が多い国だから環境問題に取り組んでいない、と単純に結びつけることはできない。むしろ、その国に住む国民一人あたりがどの程度のCO2を排出していて、1990年と比べてどのように変わっているのか、これを比べた方が参考になるであろう。というわけでここからは、上記ランキングの上位国にEU加盟国を加えた、国民一人あたりのCO2排出量が多い国ランキングを見ていこう。
 
出所:Energy Information Administration「International Energy Annual 2006」
 
ご覧頂いた通り、トップは国民一人あたりの国内総生産および国民所得世界1位、世界で最も豊かな国といっても過言ではないルクセンブルク。同国は1990年の時点でもダントツで1位なのだが、1990年と2006年の同国の数値を見比べてみると、2006年の方が、一人あたりのCO2排出量が少なくなっているのがわかる。基準年を1990年に取ることによって削減幅を大きくみせかけているという批判もあるが、他にもドイツやイギリスなど、ヨーロッパでは多くの国が国内の大幅な削減に成功しており、温暖化対策を国策として捉えて推進する真剣さとしたたかさが伺える。一方、ブッシュ政権下で京都議定書を離脱したアメリカも1990年と比べた場合には、実は、国民一人あたりのCO2排出量は減少している。

 それに対し、日本はどうなのだろうか?残念ながら我らが日本は、国全体のCO2排出量と同じく、国民一人あたりの排出量も増加してしまっている。確かに一人あたりのCO2排出量はアメリカと比べて2分の1以下、10倍の人口を持つ中国と並ぶGDP世界第3位の経済大国であることを考慮すれば、さほど高くはない数値だ。しかし、国内のCO2の排出量の内訳では、産業部門が微減したのに対し、業務部門(オフィス、店舗等)、家庭部門からの排出が共に40%以上の伸びをみせて増加が著しい。より安定した便利で快適な生活やサービス、仕事環境を重視した結果、CO2の排出量が増加してきたことがうかがえる。同時に、日本はハイブリッド車や電気自動車、炭素隔離貯留や太陽光発電技術や家電製品など、世界最高峰の環境技術を持つ国であり、今後世界中の様々な国のCO2削減に貢献していくことであろう。世界から高い評価を受けるエコ技術を持っていながら、このような結果になっているのは、こういった先進の環境技術を国内へ強力に普及させる制度が十分でなかったことと、また、そんな制度の導入の必要性を認識し、後押ししきれていない我々の意識にも問題の一端があるのではないだろうか?

 産業革命以前に280ppm(1ppmは100万分の1)だったCO2の濃度は、現在約40%も増えて390ppmに到達しようとしており、過去200万年間で大気中のCO2濃度が現在ほど上昇した時代はなかったという。このCO2の濃度を450ppmで安定化させ、地球の平均気温の上昇幅を2℃以内に収めるためには、先進諸国は2050年までに80%の排出削減、比較的裕福な発展途上国も70%の排出削減を達成する必要があると言われている。このような長期的な視野で見た時、日本のCO2排出量が増加し続けていては、国際社会の中でイニシアチブを取ることはおろか、この問題の解決に対して消極的だと捉えられても仕方がないであろう。また、京都議定書の第一約束期間に突入して1年が過ぎ(日本は特例で年度のデータを使用)、2013年3月31まであと4年弱だ。そう、5問あるテストに例えるとするなら、もう本番の第1回目のテストのちょうど2問目に取りかかったところなのだ。この期間内で1990年比、平均でマイナス6%という国際的な約束を果たすとともに、国益を損なわないようにしながら、人類の文明を根幹から揺るがす可能性を持つこの深刻な問題の解決へ貢献していくには、少なくとも国民一人ひとりが今よりももっと真剣にこの問題について議論し、実際に行動を起こして行く必要があるのではないだろうか?


★記事監修
TCO2株式会社