日本の情報流通産業の覇者リクルートが挑む海外展開。
“人材採用・人材開発領域におけるグローバルサービス立ち上げ”という、
定義自体が創生ステージにある分野に、仲間と共に松井氏が挑む。
勇気ある決断と粘り強い一歩一歩が、日本企業の真の国際化を促進する。
 
 
 
 
 
株式会社リクルート
HRカンパニー 新卒領域企画室 事業開発グループ
松井香穂里
 
 
プロフィール
カリフォルニア大学サンディエゴ校を卒業後、アクセンチュアでM&A等のコンサルティング業務を経験後、株式会社リクルートに転職。入社時は、企業向け医療サービスを立ち上げる部署に在籍し、08年にリクルートの創業事業でもある人材関連のHRカンパニーに異動し、グローバルサービスの開発に携わる。持前の語学力、行動力を活かし、海外の企業との業務提携や、自社でのサービス開発を進めている。年に1度は日常と全く異なる体験ができる国で10日間ほど過ごす。最近行ったのはイスラエル、ブータン。
 
 
 
 
 今年で創業50周年となるリクルート。『リクナビ』に代表されるように、先駆者として情報流通産業の国内マーケットを開拓してきた同社は、近年海外マーケットへの進出を図っている。2004年、中国上海での結婚情報誌『ゼクシィ』(中国版)創刊を皮切りに、2006年、中国最大の人材総合サービス企業と業務・資本提携し人材斡旋領域への参入を開始。2007年には中国・フランスで情報誌『ホットペッパー』を創刊、現時点で中国に4拠点を構えている。今後も、M&Aや新サービスの開発を通じ、世界各国で現地マーケットに根ざしたB2Cの情報マッチング事業、人材領域事業の展開を検討しているという。その中で、HR(=Human Resource)カンパニーにおいてグローバル事業に携わっているのが松井氏だ。


-現在のHRカンパニー新卒領域企画室事業開発グループでの仕事について教えて下さい。

「HRカンパニーというのは、企業の人材採用・人材開発を支援する事業に関わる部署です。私がその中で所属している組織は、その事業領域における、グローバルサービスを開発するチームです。
 しかし、グローバルサービスといっても、まだ日本企業において、グローバル人材やグローバル採用といった言葉の定義は明確ではありません。外国籍の方を採用すればグローバル採用なのか、もしくは日本人の海外に留学されている方を採用すればグローバル採用なのか。また、グローバル人材を採用する場所は日本本社なのか、海外の関連会社なのか、それ自体も明確ではない。曖昧な中で、日本企業のグローバル化に貢献する人材採用・人材開発領域のサービスとは何なのかを考え、作り出しているところです。
 その中で、私は基本的に2つのことに取り組んでいます。1つは、海外でリクルートと同じように、採用や社員の教育分野で企業にサービスを提供している会社と連携しながら、日本企業の採用・人材開発分野でのお手伝いをすること。2つ目は、リクルートが強みをもつネットメディア・広告事業といった領域で、新しいサービスを自社で開発することです。
 今現在は、アメリカ・ヨーロッパを中心に事業展開を図っています。交渉は現地で行うこともあれば、ヨーロッパの企業と中国で落ち合うこともありますね。ここ半年ぐらいで、3、4社とやりとりをし、契約の具体的な交渉段階までつめてきています」

現在の仕事で一番苦労されている点はどこですか?また、それをどのようにクリアしているか教えてください。

「一番苦労するのは、今、自分が作っているサービスの仮説が正しいという確証がないことです。グローバルサービスに限らず、新規事業はほとんどそうですが、作っているときに想定していたことの9割が間違っていることが多い。作り出す過程で、何を拠りどころとして仲間と一緒に作っていくかが非常に難しいですね。
 また、現在検討しているのは、多国籍なカスタマーを相手にするサービスですので、これまでリクルートが国内で強みとしてきたこと、成功のセオリーのようなものが通用しないことが多いですし、日本では当たり前だと思っている前提が根本からひっくり返ることはしょっちゅうです。そのため交渉に手こずることもありますが、ここは日々悩みながら、向き合っていく課題だと思っています。
 その中でもサービス開発をしていく上で拠りどころとしているのは、市場の隠れた声を一生懸命聞くことです。外国籍の方を実際に採用されている企業の人事担当者や、グローバル化がなかなか進まないと悩んでおられる経営者、日本に留学されている外国籍の学生の声などを吸収しながら、サービスの形を適宜アジャストして、最新かつ最適の解を見つけていくことを大切にしています」

どのような場面でやりがいを感じるか教えてください。

「業務に関して、上からの具体的な指示は特にありません。判断についても任されている部分が多いです。たとえば、海外のどのような強みを持つ業者と提携したほうがよいか、そのやり方についても自分で決めて進めています。海外の業者にコンタクトする際は、ホームページの問い合わせ窓口からCEOまでつなげることもあれば、人づてにCEOの連絡先を直接入手することもあります。電話会議やメールのやり取りからスタートし、感触しだいでは、すぐ現地に飛んで経営陣と交渉をスタートします。そういったことは、自分の判断で自由にやっていますね。 こうした任せる文化は、私が所属する組織だけでなく、リクルート全体にあると思います」

 
 
 
企業のグローバル化という定義がまだ曖昧な上、具体的な仕事の進め方も定まっていない中で、どのようにモチベーションを維持しているか教えて下さい。

「リクルートの事業にかかわる人間は、期間毎に設定された具体的な目標に対して、一生懸命取り組み、達成することがモチベーションとなっていることが多いと思います。
 ただ、私のいる部署は、新規事業の開発ということもあり、短期での目標や成果が見えにくい。そういった意味では、自分でガソリンを注入するポイントを作れることが重要になります。
私自身のモチベーションの保ち方、ガソリンはたくさんあります。ひとつは、5年後10年後に資産になるかもしれない色々な人との出会いや、情報収集の中から生まれる日々の発見です。また、一緒に働いている仲間が、既存のパラダイム、仕事のスタイルから脱却するために、苦労し、悩みながら進みつつ、いい顔つきになったことに気づく時はとても嬉しいですね。以前働いていたコンサルティングファームは、ある意味人に対して非常にドライでした。プロフェッショナルな集団であることが大前提でしたので、非常に乱暴な言い方をすると、短期間で成果を出せない人間は使わなくていいといったところがありました。じっくり時間をかけて人を育てるという意識はある意味薄かった。反対に、今の職場は事業も、人も一緒に成長していく、人の成長が長期的な事業の成功につながるという思いが強く、日々のマネジメントの場面でも徹底されていると思います」

学生時代と今。海外に行く意味も、ゴールも違いますが、仕事として海外に行くようになり、どういった点に変化が生まれましたか?

「学生時代との大きな違いは、今、自分が日本人のビジネスパーソンとして、グローバルなビジネス環境で大成するには、日本人のアイデンティティを追及しないといけないと思っていることです。ビジネス交渉ができるかどうかも重要ですが、会食や日常のやりとりの場で、日本人である自分を意識して相手とコミュニケーションを取っていることが多いです。ふと聞かれるんですよ、『日本は無宗教だと聞くが、モラルはどこで醸成されるのか?』、『民主党になって日本はどう変わっていくのか?』って。正しい答えはないと思うのですが、自分が感じる日本社会や、日本人の宗教観をベースに、相手に自分なりの答えを伝えられるか。それが、人間として関係を構築する上で重要な要素だと思います。
 そういった内容は、日本人として、歴史、社会等、この国の成り立ちをある程度把握し、自分のアイデンティティが確立していないと話せない。またアイデンティティが確立していない人間には、相手もちゃんと向かい合ってくれない。これは学生時代には気づかなかったことです。学生時代は、成績等、明確に人を判断する基準が多かった。しかし、ビジネスにおいては、交渉での勝った負けた以上に、日本人で生まれ育った私は、日本人として海外の方と向き合わないと、人間としてもビジネスとしても、資産といえるような関係は築けない。そこの認識が変わったことは大きいですね。
 どちらかというと、社会人になってから日本回帰していると思います。アメリカに留学しているときは、いかにアメリカ人と同じように考え、アメリカ人と同じように勝負できるかを追及していた、つまりアメリカ人化していたのかもしれない。今、ビジネスの場では、自分が日本人化していると強く感じます。
 海外生活が日本より長い等、留学生にも育った場所・歴史が色々あると思いますが、自分がベースになった国や文化が何で、自分のアイデンティティがしっかり形成されているかが、ビジネスパーソンとして活躍する上で、場に関係なく成功する大切な要素だと思います」

 
 
 
 
 
 
 
 
1997年
国際基督教大学 教養学部卒業
3年次にカリフォルニア大学アーバイン校政治学部に交換留学生として1年間留学

1997年
カリフォルニア大学サンディエゴ校修士課程入学
中国経済を中心に、国際関係学を学ぶ

1999年
同大学卒業後、アクセンチュア株式会社に就職
戦略グループでマネージャー職を担当

2006年
リクルートに入社
事業開発グループ医療ユニットにて、企業向け医療サービスの立ち上げに関わる

2008年
HRカンパニーに異動

リクルートの採用に関する情報はこちら↓
http://kaigai.rikunabi.com/recruit.html