多少、明るい兆しは見え始めてきたとはいえ、
まだまだ不況の中の就職・転職難。
新卒、第二新卒、転職組を問わず、
就活戦線の真っ直中で迷走を続ける
若者たちの心の拠り所となっているのが、我究館を率いる杉村太郎さん。
本やスクールを通して、熱いメッセージを発信
しつづける杉村さんに就職・キャリアアップについて直撃した。


取材・文/佐々木桂 撮影/鷹野政起
 
プロフィール
株式会社ジャパンビジネスラボ代表取締役会長、我究館会長、PRESENCE 会長。 会長職でありながら現在もコーチとして、我究館・PRESENCE の教壇に立ち、個別面談も行っている。ハーバード大学ケネディスクール公認のKSG Club of Japan にて出願者対応(アプリカントリエゾン)も担当している。信条は「新しい時代を作る。やるなら世界一」
ハーバード大学客員研究員も務める。
我究館サイト:http://www.gakyukan.net/
 
 
 
 
受験勉強でも、就職活動でも誰も納得のいく答えをくれない

就活を核に「自分の人生や社会について考える場になってもらえればいい」と我究館を発足したのが17年前。今や4500人の卒業生を持つ就活生の駆け込み寺となっている。
「ただ、就職活動だけのスクールってわけではないんです」と杉村さん。

高校時代から考えていたこと、疑問に思っていたこと、そんなメッセージを伝える場として起業したという。我究館に言及する前に、もう少し杉村さんの経歴を教えてもらおう。
「高校は県下屈指の進学校。全員東大目指すぞ!みたいな学校だったんですけど、僕はどうしても勉強の意味がわからなかった。何で東大がいいのか教えてくれない。何で数学を学ばなければならないのか、物理は将来、何の役に立つのか、そんなことは一切教えてくれない。
そんなやり方にすごく疑問を持ってた。まあ、生意気な学生でした(笑)」
納得はできないままだったが、やりたいことがあったため、やはり大学に行かなくては…と、効率よく受験勉強を済ませ、慶應義塾大学の理工学部に入学する。大学での研究や勉強は、好きなことだったから楽しかった。問題は就職。高校時代に勉強の意味が納得できなかったように、ある時期が来るとこぞって就職活動をするという意味もあまりわからなかった。そもそも就職協定があるのに青田刈りをする企業にも納得できなかった。
そのため杉村さんは、解禁日まで一切就活をしなかった。そして解禁後の面接で企業にこう尋ねた。
「何故、御社のような一流企業が、就職規定を破ってまで、早くから学生を囲い込むのでしょうか?」

そんな素朴な疑問に、丁寧に答えてくれる企業もあれば、面倒臭そうに「もっと社会を知ればわかるよ」と、したり顔で答える面接官もいたという。「ここでもまた生意気なんですね(笑)。でも、やっぱり納得できないものは納得できない。だってそうでしょう。世界に名だたる一流企業なんですから、もっとどっしりと構えてたって良い学生は来ると思うんですよ。逆に、当社では就職規定を遵守する学生を採用しますというぐらいの姿勢がほしい。そう思ったんです」

正論である。
「結局、いろいろ企業研究を重ねた結果、“事業を創造できる仕事”として商社を選びました。商社って何でもできるんですよ。これを売らなきゃいけないというものがあるわけではない。自分がイケると思ったら、野菜を育てたって良いし、漁業を始めたっていい。入社した頃は、さあ、やるぞ!という思いだったんですけどね…」

ところが、実際に、仕事についてみると、「ビジネスって何だろうな」との思いが頭をもたげてきた。
「知ってることを言わないことで成立するビジネスじゃないですか。
全部教えちゃったら、どの会社も直で取り引きするようになるから、商社はいらなくなっちゃう。から、全部教えてるふりして実は大事な部分は教えないとか、そういう仕事だなって思ってしまったんです。
もちろん、今、大人になって考えれば、いろいろ複雑なことがあるから、一概にそうともいえないんですけど、でも、当時の僕は納得いかなかった」




そして、引き金となったのが、当時、人気を博した「シャインズ」での正式デビュー。当初、アマチュアとして活躍していた「シャインズ」は、コメディのできる歌手、または歌えるコメディアンという位置で人気を博し、ついにメジャーデビューへの誘いが来る。しかし、会社の反応はNO。会社に籍を置いての副業とみなされたのだ。音楽に対して幼い頃から並々ならない思いがあった杉村さんは、当然のように会社を辞め、音楽に専念することになった。

しかし、ここでも障害が。
「僕はちゃんとした音楽をやりたかったんですよ。音楽で勝負したかった。でも、レコード会社も事務所も方針は歌えるタレントの位置。デビュー曲『私の彼はサラリーマン』はコミックバンド的な扱いだったけどそれはそれでよかったんです。サザンだって『勝手にシンドバット』だしね。でも、次の曲はやっぱり『愛しのエリー』にしたかったんですよ(笑)。サラリーマンの悲哀を歌う曲も候補にあって、次はそっちで行きたかったんです」

結局、意見が通らず、踊らされるままに活動するも、3年後、「シャインズ」は活動を休止した。
「これからは、自分が本当にやりたいことをやろう。大変かもしれないけど、自分の思いの丈をぶつけられる仕事がしたい。それなら起業するしかないなと。それで我究館を立ち上げたんです。29歳でした」
就活のアドバイスという形をとってはいるが、我究館は杉村さんが高校時代からやりたかったことの集大成でもあった。世の中を良くするために発信したいメッセージはいくらでもある。それを発信する場所なのだ。
「就活のために自己分析をしたり、心から納得のいくキャリアを描いたりっていうのは、就活以外の人生でも必要なことじゃないですか。
それをきちんとやっていこうよ。そんなメッセージを送りたかったんです。僕の高校時代と同じように、いろいろなことに納得できなくて、一人で悩みを抱えている子たちは、今でもたくさんいるんです。自信をなくしてる子、好きなことを見つけられない子、何にも燃えられない子、そんな子たちに、自分の人生や社会について、納得いくまでじっくり考える場を与えたい。それが僕の事業の核になってますね」

我究館がある程度軌道に乗った頃、杉村さんはハーバードに留学する。そしてその時の体験をもとに、TOEFLテスト/TOEICテストコーチングスクール「プレゼンス」を設立する。これも、自身の体験を少しでもみんなの役に立てたいという思いからだった。
「留学体験は、僕にとって貴重でした。もともと他人にモノを聞くのが大嫌いな性格だったんですけど、そんなことじゃ向こうで暮らせないし、学べない。毎日、他人に聞きまくりです(笑)。それが結果として、語学の上達にもつながったし、それ以上に、ネイティブと対等に議論しあえる環境作りにもなった。そのことが大きいですね」

みんなもっと本を読み議論しとことん考え尽くしてほしい
 
留学生の一番の問題点は、勉強に縛られることだと指摘する。語学を覚えること、生活に慣れること、Aをとることにアップアップで、それ以上のことを学び取ってこないで終わってしまうのだという。
「はっきりいって、日本で大学生活をした学生の方が、思考能力もボキャブラリーも上です。ましてやリーダーシップとなると、留学生はかなわない。日本にいると、英語はできなくても、大学時代にサークル活動をしたり、バイトをしたりして、リーダーシップを自然に身につけているわけですよ。だから、留学生たちは、留学したということで満足してはいけない。

確かにすばらしい体験をしてきたことは事実だけれど、もう一歩先の何かをつかんできてほしいと思いますね。留学生に就活のコーチングをする機会もあるんですけど、本当に日本語の表現が稚拙です。
話すことはできるし通じるんですけど、ボキャブラリーがない。みんな忙しくて本もあまり読んでないからじゃないですかね。、留学中は、大変だろうけど、語学の基本的な勉強以外に、英語でも日語でももっと本を読んだり、友人と議論をしたりしてほしい。そういうところから表現力にも思考力にも磨きがかかってくると思うんです。留学できるということは恵まれた環境にいるということなんだから、苦しいかもしれないけど、もうひとがんばりしてほしいですね」

忙しい留学生にとっては厳しい言葉かもしれないが、確かに正論である。日本の学生の就活でも、その辺で明らかに差が出るのだから、英語が話せるだけでは、アドバンスにならない時代なのかもしれない。

杉村さんが次に注目しているのはニート層だ。昨年から、ニートやワーキングプア、フリーターたちに無料で就活のコーチングをしている。
 
「彼らの潜在能力はスゴイ。自分が納得しないと動けないタイプですから、納得するまではやらない。 だから普通の学校や企業では、そのままでは落ちこぼれてしまう。でも、納得することならとことんやるから、成長も著しいんです。スイッチが入ったらドカンといきますよ」
子供たちが伸び悩むのは大人の責任でもあるという。
「大人が逃げ腰にならずに正面からちゃんと向き合えば、子供たちは絶対に伸びます。でも、現実にはそうじゃない。何でこれをしなきゃいけないのか。何で必要なのか。そういう疑問に真剣に答えてくれないから、みんな考え込んでしまうんです。一人で考えて悶々としてしまう。そんな時に向き合える大人がいれは、それはもう強いですよ。どんどん伸びます。成長します」

今の時代、考える人が多くなっているともいう。「よく考えよう」が大前提となっている杉村さんの『絶対内定』シリーズは、今年が最も売れ行きが良い。これは考える人が増えているからではないかと分析する。
「でも、勘違いしてほしくないのは、自分についてだけ考えては不十分だということ。昨今の風潮として、自分について考える、考えたい、という人は非常に増えているように思います。でも、それだけじゃさみしい。自分がどういうインパクトを社会に与えたいのか、自分が育みたいものは何なのか、そこまで考え尽くしてほしい。そして、その後、それを実戦してほしい。
それが本や我究館を通して、常に伝えていきたいと思っている僕のメッセージですね」
 



留学生にぜひ読んでもらいたい!
 
絶対内定2009
自己分析と
キャリアデザインの描き方

(2008年/ダイヤモンド社/1800円+税)


まずは、自分とそして他人と本気で向き合おう

1994 年に、今でこそ当たり前となっている" 自己分析" を就職活動に導入し、" キャリアデザイン"という考えを浸透させた『絶対内定』シリーズの2009 年(2008 年度)版。夢を実現するためのビジョンと戦略を立てるには何をすべきか。104 のワークシートでキャリアデザインを描き、夢を実現する方法を指南する。