ここ数年、海外の日本人留学生に対する採用ニーズが
急激に高まってきている。その真の理由はどこにあるのか—。
アンケート調査の結果から企業の思惑を考察し、
留学生が内定を勝ち取るためのヒントを導き出す。

 
 
 
 

企業の採用課題は「人材の質と数の担保」

 現在、日本国内の企業にとって大きな問題となっている「団塊世代の大量退職」。この数年で、企業活動の原動力となっていた人材が大量に退職していく現実は、労働力不足のカバーと同時に、長年蓄積された事業ノウハウを受け継ぎながら次世代を担える人材の採用という課題を、企業に突きつけている。そうした危機感が、特に大手企業を中心とした若年労働力の確保に向けた動きを活発化させている。その傾向は、2004年3月卒の学生を対象とした求人倍率と比べ、09年3月卒対象の数字が、企業規模を問わず約1・5倍以上という高い推移を示していることにも表れている。この状況は、就職を目指す学生にとっては“売り手市場”なのかもしれない。
 しかし当然、企業は採用数を増やすことだけを目標にしているわけではなく、「質を落とさずに数を増やす」という採用スタンスをとっている。アンケート調査の結果を示した別表の通り、企業側は様々なポイントを設定して面接を行いながら、自社とマッチする人材の確保を目指しているのである。では、最近の採用基準における特徴にはどういったものがあるのか。

 
 
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既存事業の変革を実現する人材の判断ポイントとは?

 先に述べた「団塊世代の大量退職」の問題以外にもう一つ、企業にとって大きな採用課題を生み出している現状がある。それは産業構造の変化だ。
 流通業を例にすると、従来のスーパーマーケットの運営に加え、近年ではドラッグストアとの複合店、インターネットを介したオンラインショップなど、新たなマーケットを舞台にしたビジネスモデルが出現してきている。そうした業態の変化に対応しながら事業を担うためには、ホスピタリティやコミュニケーション能力といった従来の店舗スタッフに必要とされた能力はもちろん、物事をドラスティックに変革できる行動力などの能力がより重要になってくる。こうした事業の変換、そしてそれに対応できる人材へのニーズは、流通業界に限らずあらゆる業界に見られる傾向なのである。そうしたニーズの変化は、企業が採用時に重視するポイントというアンケート結果(下表)に顕著に表れている。
 まず最初に「面接の際に重視するポイントの優先順位」を見てみると、「価値観」「自社や業界への興味」、そして「潜在的能力」というものが挙げられている。その“能力”の内容は「選考時に重視するポイント」として表示されているが、注目したいのは「主体性」や「実行力」「発信力」などの要素が上位に入っている点だ。
 目まぐるしく変化するビジネスモデルに対応しながら事業を推し進める力、与えられた仕事をこなすだけではなく自ら行動できる力——。アンケートの結果を踏まえて採用の傾向を判断すると、それこそが新たな時代を迎える国内企業が人材採用において最も重視する能力だと言える。そこで俄然注目を集めているのが「海外に出ている日本人留学生」なのである。

 
 
 
 

企業規模、業種を問わず海外留学生へのニーズが拡大

 
 
今回本誌は、最近の企業の傾向を知るために、新卒学生向け情報サイト「マイナビ」の編集長である、株式会社 毎日コミュニケーションズ・栗田卓也氏に話を聞いた。日本人留学生向けの就職支援サイト「マイナビ国際派就職」を運営する中で、同氏はここ2~3年で海外留学生へのニーズが高まってきていると、自らの実感を語る。
「ここ3年の間に、毎年約10万人ずつ求人総数は上がってきています。60万人から90万人ぐらいに急激に増えているわけですが、特に海外に留学している日本人へのニーズは高まってきています。その背景には国内の人材不足、事業のグローバル化など様々なものがあると思いますが、これまで積極的ではなかった業種の企業も海外留学生の採用に取り組み始めているというのが最近の傾向です」
 海外留学生向けのメディアを展開する同社では、留学生が一時帰国する夏と冬に、学生と企業担当者を集めるイベントを開催している。同様に、採用メディアを扱う他社も約3年前から積極的にイベントを手掛けるようになったと指摘する栗田氏は、当初の傾向について次のように分析する。
「大手商社やメーカーなどは、人材確保のために渡航費用をかけて海外の大学まで足を運ぶこともあります。そうした業種の企業にとって、国際的な事業を展開する上で海外志向の強い学生を採用するメリットは大きいはずです。また、他にも外資系企業やコンサル企業、金融企業などが積極的に海外留学生を採用してきましたが、やはり国際的な事業マーケットを見据えた上で、海外生活の経験、語学力というものへの期待が主な理由としてあったと思います」




語学力より重要視される留学経験者の行動力

 しかし、最近は別の傾向も見られると栗田氏は語る。同社のアンケート調査によれば、海外へ留学している日本人学生に期待する能力として、語学力に次いでコミュニケーション能力や行動力を挙げる企業が多いという結果が出ている。これは、上場・未上場という企業規模を問わず見られる傾向だ。
「企業が海外留学生に期待する能力は、語学力は必須能力となって、バイタリティやコミュニケーション能力というところが中心になっています。行動力もそうですが、自ら進んで新しいことにチャレンジできる力、主体性を持って物事に取り組める能力を、海外留学生が有していると企業側は考えているわけです。それは、自分から未知の世界に飛び込むという姿勢で海外に行くことを決めた経験を、留学生が必ず持っているからです。こうしたポテンシャルこそ、企業が“優秀な人材”だと判断する材料になってきているわけです」
 アンケート結果を見ると、留学生の採用理由のトップは、「外国語や国際性の必要性」ではなく「優秀な人材の確保」となっている。事業の内容、規模にかかわらず、企業側は海外留学生の行動経験を一つのアドバンテージとしてとらえているということだ。

 
 
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国内企業から人気を集める“理工系人材”とは?

 もう一つの事実として、理工系出身の人材を求める企業が増えているという傾向もある。アンケート調査の結果に出ている通り、「電気・電子系」「機械系」の出身者に対し、メーカーなどを中心とした企業からの人気は依然高い数字を示している。この従来からの求人ニーズに加え、最近では情報系出身の人材に対する人気も増えてきていることから、国内の採用マーケットは“理高文低”の状況になりつつあると、前出の栗田氏は分析している。
「その背景には、国内企業における団塊世代技術者の退職というものがまずあると思います。もう一つ、産業のIT化に伴って、あらゆる業種の企業において技術的なスキルを持つ人材が必要になってきているという理由もそこにはあると思います。海外の大学で理工系を専攻した人材は、日本に帰ってきたら“引く手あまた”の状態になるのではないでしょうか」
 メーカーなどにおける研究開発事業の人材ニーズに加え、IT分野への事業拡大が理工系人材の人気を高めているということだ。さらにもう一つ、企業が理工系人材を重用する理由がある、と栗田氏。
「近年では、通常のビジネスにおいても、いわゆる“理系アタマ”が重要になってきています。物事を論理的に考え、課題を解決していこうとする能力はどんな仕事においても必要。そうした人材ニーズの変化が、研究開発分野における人材不足と相まって、理工系人材の人気を高めているのだと思います」



“理工系”的要素+主体性が企業にとっての魅力となる

 アンケートには、「理工系人材を採用するにあたり技術者に求める“資質”」という質問項目がある。その回答を見ると、技術力や学位に応じた基礎知識という回答よりも、「コミュニケーション能力」「行動力・実行力」「チャレンジ精神」という回答数の方が多くなっている。その理由について、栗田氏は「ビジネスサイクルの変化が影響している」と指摘する。
「理工系・文系を問わず、企業は人材の主体性や実行力、コミュニケーション能力をより重視するようになっています。なぜかというと、そうした能力は自分で物事を考えて仕事を進めていく上では不可欠なものです。昔であれば、ビジネスモデルを一つ構築すれば5~10年は安泰でしたが、現在は3年ほどで古くなってしまいます。そのようにビジネスサイクルがより短くなっている現状では、常に自分の考えを持って新しいマーケットを切り拓こうとする実行力をもった人材が求められるわけです。だからこそ、そうした能力を持つ人材、または持てるように努力できる人材が有利となるのです」
 論理的思考に加え、留学経験者が有していると考えられる主体性やコミュニケーション力こそ、今の国内企業で真に必要とされている能力なのである。

 
 
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海外留学生に対する「国内企業認知」のススメ?

 ここまで、企業が期待する要素から「海外の日本人留学生に対する人気」を解説してきた。この最後の章では、採用される側の留学生に必要なことを確認してみよう。
 前出の栗田氏は、海外の日本人留学生の意識について次のような指摘をしている。
「夢と希望を持って海外に留学し、向こうで仕事に就きたいと思いながらも難しさを感じて日本に戻ってくる学生の方は、意外に多いのではないでしょうか。大学の勉強と就職活動の両立が大変だということもありますが、自身の可能性を最大限に発揮できる就職先を見つけるためにまず必要なのは、あらゆる業界の企業情報を徹底して調べることだと思います」
 日本国内の学生に比べ、卒業時期の問題や就職活動のスケジューリングなどの面で、海外留学生は不利だとされている。その状況の中では、日本人留学生の就職先業種・企業に偏りができ、そのカテゴリー以外の企業についての情報を得ることなく就職活動を終えてしまうことも多いかもしれない。しかし先に述べたように、国内企業の日本人留学生に対する注目度は急激に高まっている。海外拠点がない、語学力を活かせる仕事がないという理由から、これまで海外留学生にアプローチしていなかった企業が、その行動力やバイタリティに魅力を感じ、採用を積極化させているケースも数多く見受けられる。つまり、留学生が活躍できるフィールドは広がり、キャリアアップのために入る企業の選択肢は増えてきていると言える。その現実を踏まえた上で、就職情報サイトや国内の就職イベントを通して企業認知を深めることによって、自身のチャンスをより大きくすることができるのである。



海外への留学という経験をアドバンテージにするために

 では、海外の日本人留学生がアドバンテージを最大限に発揮し、就職活動を有利に進めるためには何が必要になるのか。それは、海外留学の時期に感じた自分の気持ちや経験を「棚卸し」しておくことである。マイナビ編集長・栗田氏は、留学生に向け次のようにアドバイスしている。
「採用基準というものを考えると、ベーシックな人物評価という点においては、国内の学生も留学生も違いはありません。ポイントとなるのは、なぜ海外留学しようと思ったのか、そこで何を得たのかということを、自分の言葉で語れるかどうかだと思います。そこで自身の行動力やバイタリティをアピールできれば、海外留学という経験をアドバンテージとすることができるのではないでしょうか」
 大学主催のガイダンスや面接対策講座を受けることができる国内学生に比べ、留学生はより積極的に取り組む姿勢が必要となるかもしれない。しかしそのハードルに向かう積極性こそが、就職を成功に導くカギになると言える。まさに企業が留学生の最大の魅力と感じる行動力やバイタリティが、就職活動においても重要な要素になるのではないだろうか。

 
 
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●表の見方 … 表【1】~【8】は、毎日コミュニケーションズ調査による「新卒採用 における人材ニーズ調査アンケート」の調査結果より抜粋した。調査概 要:国内優良企業8000社に対し2007年12月7 日に発送。2008年1月21日592件回収。内訳は 上場企業138社、未上場企業454社。製造業254社、 非製造業338社
 
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海外の日本人留学生にとって、多数の国内企業が参加する就職フェアは、企業の人事担当者とコンタクトできる数少ないチャンスの一つだ。株式会社 毎日コミュニケーションズが主催する「マイナビ国際派就職EXPO」もそんなイベントの一つ。夏・冬の休暇を利用して帰国する留学生が数多く参加している。今年も12月16日㊋・17日㊌の2日間にわたって開催される同イベントに足を運び、現状の企業ニーズを肌で感じてみて欲しい。 
マイナビ国際派就職EXPO⇒http://global.mynavi.jp/
 
 

 
 

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