一般的にはあまり知られていない「化学工業」。
だが実は様々な製品の材料となる素材を生み出している、
重要かつ世界で戦うことのできる日本の誇れる産業の1つだ。
世界TOPクラスと言われる日本の自動車産業。
その自動車を構成する部品に関しても多くのパーツが、化学工業が生み出す素材から作られている。
他の産業と同じく、将来的に高い環境性能が求められる自動車部品関連において、
三井化学がトヨタ自動車、トヨタ紡繊と共同開発した
植物由来のポリウレタンが、世界から注目を集めている。
 
 
 製造業のなかでも、化学工業は文系の学生にとって馴染みのない分野ではないだろうか。ひとくちに化学工業といっても、製品は素材そのものから、加工品にいたるまで、その範囲は実に多岐に渡る。表には見えないが、実はこんな身近なところにも化学の力が、という実例は枚挙にいとまがない。

 日本標準産業分類によると、「化学工業」には、「化学的処理を主な製造過程とする事業所及びこれらの化学的処理によって得られた物質の混合、又は最終処理を行う事業所のうち他の中分類に特掲されないもの」が分類される。産業のなかで出荷額と付加価値額は、輸送用機械、一般機械に次いで第3位(金額は2007年。経済産業省「工業統計調査」より)となっている。実は、化学工業は日本の基幹産業のひとつといっても過言ではない。

 ちなみに、日本では三井化学以外にも、三菱ケミカルホールディングス、住友化学、旭化成、昭和電工、信越化学工業、東ソーといった企業が売上の上位を占める。

 海外に目を向けてみると、日本の化学工業は出荷額でアメリカ、中国、ドイツに次いで4位(2007年)。メーカー別に見ると、化学製品の売上高では、三菱ケミカルホールディングス、三井化学、住友化学がベスト20に入っている。

 また、それぞれの会社で得意分野はさまざま。今回注目した三井化学は、主に自動車・産業材、コーティング・機能材、生活・エネルギー材、電子・情報材などの製品の開発・製造・販売を行う「機能材料事業本部」、精密化学品および農業化学品の製造・販売を行う「先端化学品事業本部」、石油化学原料、フェノール、合成繊維原料などの製造・販売を行う「基礎化学品事業本部」の3つの事業本部があり、多くの製品が製造されている。

 これら化学を活用した素材や製品は、時代とともに大きく進化を遂げてきた。例えば、分かりやすい所で自動車部品。あるメーカーの車1台を分解してみると、三井化学が供給しているものだけで70%を超えるともいわれている。なかなか表舞台で日の目を浴びることは少ないが、実は化学の力は不可欠である。これは、軽量化や環境への対応という観点からみても、今後さらに大きな役割を担うと期待されている。

 
 
 
 
 今や環境問題は不可避な問題であり、地球温暖化対策CO2排出量削減問題は地球規模での対応が求められている。この問題に対して素材メーカーである三井化学はポリウレタンにおいて非可食の植物由来の原料の活用によるカーボンニュートラルのコンセプトに基づき、世界TOPレベルの性能を求める日系自動車会社の自動車内装材品質をクリアする環境対応製品の開発という非常に難易度の高い課題に挑んだ。

そして、トヨタ紡織、トヨタ自動車との共同開発を行い、2009年に世界に先駆け製品化したのが、植物由来ポリウレタンの自動車用シートクッションである。このシートクッションは環境対応コンセプト車の新型トヨタ・プリウスとレクサス・HS250hに採用されている。食物資源と競合しないトウゴマ由来の「ひまし油」を基に、自動車シートクッションに求められる性能を発現させるための分子設計を施したバイオポリオールを開発。このバイオポリオールを従来ほぼ100%石油由来であるポリウレタン原料中に約15%使用。この技術は、国内、海外各社で開発が進められていた他の自動車シートクッション用植物由来ポリウレタンを性能面、植物由来成分含有度において大きく凌駕するものである。

また、この環境対応製品の更なる普及化も目指している。現在はシートクッション(座面)のみに採用されているが、自動車内装材の他の部位への用途展開、品質を落とすことなく植物由来成分含有度を向上させ更に環境負荷を低減させる検討などにも積極的に取り組んでいる。

 一方、昨今の自動車用材料に求められる機能は、「環境対応」、「快適性」と考えている。「環境対応」では、先の植物由来原料によるCO2排出量抑制と並んで、「軽量化」による走行時のエネルギー消費抑制があり、「快適性」については、「薄肉化」による車内有効体積の向上が代表例として挙げられる。また今後、ハイブリッド車や電気自動車にシフトするにともない従来ポリウレタンが使用されていなかった部位への可能性も期待される。三井化学は、こういったキーワードに基づくポリウレタンを研究開発し、お客様とともに製品化し市場に投入する活動を今後も継続し、世界に存在感のある地位の確立を目指していく。


 
 
 
 三井化学のポリウレタン事業は国内にとどまるものではない。自動車内装材の分野は素材メーカーが単独で海外進出することはそれほどない。トヨタや日産、ホンダなどの日系自動車メーカーが海外に拠点をつくる時に、部品メーカーや素材メーカーも一緒に現地で工場を設立する。そうすることで、現地で日本と同じ品質の製品を確保できるようになるからだ。三井化学はアジアの主要地域に拠点を設置し、日本品質のポリウレタン原料を現地のお客様の工場に安定的に供給。更に技術サポート体制のネットワークをも構築。その技術ネットワークの強化をはかっている。

 脱化石燃料、環境性能重視という世界的な流れを受けて、日本の自動車業界も大きな転換期を迎えている。

そんななか、三井化学も開発に関わった植物由来の自動車用シートクッションは、日本の自動車業界の更なる飛躍の起爆剤となれるのか。

 今後、環境関連需要の高まりとともに、ハイクオリティ&ローコストを求める市場の要求に合わせた事業展開ができるかどうかが三井化学を含めた化学メーカーの命運を握っている。
 大きなパラダイムシフトが要求される今だからこそ、三井化学、そして日本の化学技術が持つ真の力を発揮する時なのかもしれない。
 燃料は太陽電池、動力はモーター、パーツや内装材は植物由来、部品の90%以上リサイクル可能。そんな自動車が生まれる日も遠くないはずだ。