近藤 学さん
Manabu Kondo

GDX Japan株式会社 取締役 事業開発担当役員。
1998年SI会社を経てIIJに入社。入社以来、数々のIIJの主要なメールサービスについて、
プロジェクトリーダーとして、企画、開発を進める。
また早くから迷惑メールへの対策を訴え、IIJの迷惑メール対策団体
JEAG (Japan Email Anti-Abuse Group)の創設に関わるなど、積極的に活動。
 
 
日本のインターネットの歴史はIIJの歴史でもある。


インフラやネットワーク技術の分野がメインなだけに、一般ユーザに会社の認知度が高いとはいえない。しかし、IIJ(株式会社インターネットイニシアティブ)は、日本のインターネットを創ってきたと言っても過言ではないほど、その発展に大きく貢献してきた会社である。
 
 設立は、まだ日本ではインターネットが黎明期だった1992年。インターネットの商用化を目的として技術者たちが集い、スタートした。以来、94年にプロバイダ事業をはじめ、ダイヤルアップIP、ファイアウォールといった多くのサービスや国内最初のオンライン証券システム開発など、卓越した技術力でこれまでになかったシステムを構築し、常に国内のネット業界を牽引し続けているのだ。
 
 黎明期より、インターネットの発展に寄与してきた同社だが、その役割は、新しいインフラを構築することだけに留まらない。というのも、同社はインターネットを“守る”ことも率先して行っているのだ。例えば、迷惑メール対策。実は、現在世界中で配信されている電子メールの約8割が、迷惑メールだと言われている。もし、何も対策が施されていなければ、我々の手元には1日に何百通もの迷惑メールが届くことになる。我々が日々快適にメールを扱えるのも、同社をはじめとするネット業者各社の対策に依るところが大きいのだ。今回は同社の取り組みの一例として、この迷惑メール対策を追ったのだが、その結果、インターネットが持つ可能性の大きさを再確認させられようとは思ってもみなかった。同社の迷惑メール対策、その先には我々の想像を凌駕する新しいインターネットの姿が広がっていた。
 



 
 


「迷惑メール自体は95年頃から欧米で話題になっていて、我々としては早めに準備をしておかなくては後々痛い目に遭うということで、2000年頃からリサーチを開始していました」
 
 そう話すのは、IIJの迷惑メール対策の企画を手がけてきた近藤氏。
 
 しかし当時の日本では、まだ迷惑メールというと携帯電話をターゲットにしたものが中心で、一般のインターネットユーザーあるいは法人のメール環境などではそれほど深刻な問題となっていなかったため、社会的な意識も低かった。
 
 
 
 
早くから迷惑メールの対策システムを構築していたIIJであったが、当時は、そのシステムはあまり普及しなかったという。
 それでも、欧米の迷惑メールの氾濫状況を知る、近藤氏をはじめ、IIJのエンジニアたちは「近い将来、必ず国内でも迷惑メールが問題となる」。その時に少しでも貢献できるようにと、引き続きその対策に奔走する。2003年には、迷惑メール対策の国際ワーキングループ、MAAWG(Messaging Aanti-Abuse Working Group)の創設に、日本企業で唯一参画した。何の垣根もなく世界中を飛び回れるインターネット。この“国境なき世界”では、こうした全世界で足並みを揃えた対策が必要となる。近藤氏は「これにより迷惑メールの問題の危機感を世界中で共通の認識として持つことができた」と、その重要性を語った。そして、05年3月にはIIJや国内主要プロバイダ会社など6社が中心となって、迷惑メール対策ワーキング・グループJEAG(Japan Email Anti-Abuse Group)が設立された。
「ISP、携帯キャリア各社に呼びかけた結果、携帯キャリア3社および国内主要プロバイダの多くが集まりました。全社結託してOP25B(※1)という対策を施すと、わずか1年で日本発の迷惑メールは半減しました」
 
 
現在、日本で流れている迷惑メールの90%以上は、海外から送られてくるもの。日本からはほとんど送れなくなっているのだ。
 ただし、迷惑メール対策はウィルス対策と同じで、対策ができてはそれをやぶる新種が現れる。そこでIIJは、最初から悪いものを入れない世界、新しいエコシステムを作るという、世界初のコンセプトを持つグループ会社GDX Japanを設立。
「GDX Trusted Platform」というサービスを開発し、インターネット業界に革命的な一石を投じた。
「特定多数による一種のSNS的な新しい生態系を、今あるインターネットの上に構築するような仕組みです。インターネットが爆発的に広まった点の一つに、不特定多数との自由なやりとりという思想があると思いますが、作今の状況を見るとそういった思想に疑問の声も挙がってきている。そこで、いわゆる「ホワイトリスト」ベースの考え方、つまり、信頼できると自らが判断できる特定多数とのやりとりを基本とするような生態系を新たに構築できないかと考えているわけです。これにより、「自分がやり取りする相手は基本的に自分が知っている、あるいは信頼できると判断した相手」が主体となり、コミュニケーションの主流はクリーンなものとなりますよね?そういった生態系、コロニー的なものえとインターネットの上に構築していこうというのがGDXの思想です」
当面はビジネス用として運用予定だが、個人ユーザーやコンテンツ事業といった様々な業種の企業はもちろん、組織や国境をも越えてのコラボレーションにも意欲的だ。
「インターネットはまだまだ全然未成熟な業界。まだまだこれからです。
とは、近藤氏の言葉。“0(ゼロ)”から“1(イチ)”を生み出すことで、インターネットを守り、そして新しい未来を切り拓いていく。安心して繋がれる世界の構築を目指してIIJグループの挑戦は続く。
 
 
※OP25Bとは
Outbound Port 25 Blockingの略で、多くのISP(インターネット・サービスプロバイダ)が実施している「迷惑メールを送信させない」対策のひとつ。迷惑メールの対策としては非常に大きな効果を上げている。